「頑丈なU字ロックで、フレームと地球ロックをしたから、もう安心だ」。そう思っているあなたは、プロの窃盗犯の思考を少し甘く見ているかもしれません。彼らは、単に鍵を壊すことだけを考えているわけではないのです。U字ロックが持つ、構造的な弱点や、ユーザーの心理的な隙を巧みに突き、私たちの愛車を狙っています。U字ロックだけでは意味がない、と言われる、その具体的な手口と弱点を理解しておきましょう。まず、最も古典的でありながら、今なお有効なのが「部品外し」です。多くの人が、U字ロックを自転車のフレームと前輪、そしてガードレールなどを一緒にロックします。しかし、窃盗犯にとって、クイックリリース式の前輪を外すことなど、わずか数十秒の作業です。彼らは前輪をあっさりと外し、最も価値のあるフレーム本体と後輪だけを悠々と持ち去っていきます。残されたのは、U字ロックに繋がれた、哀れな前輪だけ。この手口を防ぐには、U字ロックだけでは不十分であり、ワイヤーロックなどを併用して、フレームと前後輪、そして地球ロック先を、全て繋ぐ必要があるのです。次に、U字ロックの「大きさ」が弱点となるケースです。フレームと地球ロック先との間に、大きな隙間ができてしまうような、大きすぎるU字ロックを使っていると、その隙間にジャッキなどの工具を差し込まれ、テコの原理で破壊されてしまう危険性があります。U字ロックは、できるだけ隙間ができない、コンパクトなサイズのものを選ぶのが鉄則です。さらに、窃盗犯が狙うのは、U字ロックそのものではなく、「地球ロック先」の強度です。細くて錆びついたフェンス、簡単に引き抜ける標識のポール、あるいは工事現場の仮設ガードパイプなど、破壊が容易な場所にロックしてしまっては、U字ロックがどれだけ頑丈でも全く意味がありません。自転車ごと、あっさりと持ち去られてしまいます。そして、究極の手口が「車での持ち去り」です。複数のロックで厳重に施錠されていても、犯人たちは、その自転車をそのままバンなどの車に積み込んでしまいます。そして、人目につかないアジトで、時間をかけてゆっくりと鍵を破壊するのです。このように、U字ロックは単体では決して万能ではありません。その弱点を理解し、他の防犯対策と組み合わせるという発想こそが、本当の安全への第一歩なのです。