「ママ、ドアが開かないよ!」。トイレの中から聞こえる、子供の泣きそうな声。親にとって、これほど心臓が縮み上がる瞬間はありません。子供が中に閉じ込められているという状況は、親をパニックに陥らせ、冷静な判断力を奪いがちです。しかし、こんな時こそ、親が落ち着いて、リーダーシップを発揮することが、子供を安心させ、そして迅速に問題を解決するための鍵となります。まず、親が絶対にやってはいけないのが、ドアの外から「何やってるの!」と、子供を叱りつけることです。子供は、すでに暗くて狭い場所に一人でいるという、大きな不安と恐怖を感じています。親の怒声は、その不安を増幅させるだけで、何一つ良い結果を生みません。最初にすべきことは、ドア越しに、優しく、そして落ち着いた声で、子供に語りかけることです。「大丈夫だよ、パパ(ママ)が必ず開けてあげるからね。怖くないよ」。この一言が、子供のパニックを鎮める、何よりの薬になります。次に、子供に状況を確認させます。「鍵のつまみは、どっちに回ってるかな?」「ドアノブは、くるくる回る?」。もし子供が答えられなくても、責めてはいけません。親は、外側から状況を打開することに集中します。そして、取り出すべきは、財布の中の「十円玉」です。ほとんどの日本のトイレの鍵には、外側に非常解錠用の溝があります。その溝にコインを当て、「今から開けるからね」と一声かけてから、ゆっくりと回します。カチャリ、という音と共にドアが開いた時、泣きじゃくる我が子を、まずは力いっぱい抱きしめてあげてください。そして、「よく頑張ったね。怖かったね」と、その気持ちを受け止めてあげましょう。この一連の経験は、子供にとっては怖い出来事ですが、親の冷静で頼もしい対応によって、「困った時は、パパやママが助けてくれる」という、絶大な安心感と信頼感を育む、貴重な機会にもなり得るのです。