トイレドアが外側から開かない。そんな時、私たちの最強の味方となるのが、ほとんどのトイレの鍵に標準装備されている「非常解錠装置」です。この装置の存在を知り、その使い方をマスターしておけば、多くのトラブルは、専門業者を呼ぶまでもなく、わずか数十秒で解決することができます。特に、最も広く普及しているのが、「溝(スロット)タイプ」の非常解錠装置です。これは、ドアの外側のドアノブの中央や、鍵の「空室/使用中」を示す表示部分に、横一文字の溝が刻まれているものです。この溝は、まさに緊急時に、身近な道具で開けるために設計されています。そして、そのための最適な道具は、あなたの財布の中にあります。そう、「硬貨(コイン)」です。十円玉や百円玉など、ある程度の厚みと硬さがあるコインを一枚用意してください。もちろん、マイナスドライバーがあればそれがベストですが、緊急時に都合よく持っているとは限りません。コインさえあれば十分です。使い方は非常にシンプル。まず、コインの縁を、ドアノブの溝にしっかりと差し込みます。そして、ゆっくりと、しかし確実な力で、コインをどちらかの方向に回転させます。製品によって回転方向は異なりますが、ぐっと力を加えると、内部で「カチャリ」という小さな手応えと共に、ロックが解除されるはずです。この時、焦って力を入れすぎると、溝を潰してしまう「ナメる」という状態になりかねないので、あくまで慎重に力を加えるのがコツです。もう一つのタイプとして、「穴(ピンホール)タイプ」もあります。これは、ドアノブの中央に、つまようじやクリップの先が入るくらいの小さな穴が開いているものです。この場合は、硬貨ではなく、クリップを伸ばしたものや、ボールペンの先などの細くて硬い棒を用意し、その穴の奥に向かって、強く押し込んでください。すると、内部のロック機構が押し出され、施錠が解除されます。この二つの非常解錠装置の存在は、まさに家庭の防災知識の一つです。一度、ご自宅のトイレのドアを外側から確認し、どちらのタイプが付いているか、そしてそれを使うための道具がすぐ近くにあるかを、家族全員で共有しておくことを強くお勧めします。