私たちは、U字ロックの太い鋼鉄の塊を見る時、そこに「切断できない」という、絶対的な信頼を置いてしまいがちです。しかし、その信頼は、現代の破壊工具の前では、もろくも崩れ去る可能性があるという、厳しい現実を知っておかなければなりません。特に、プロの窃盗団が使用する「油圧カッター」は、U字ロックにとって、まさに天敵とも言える存在です。油圧カッターとは、その名の通り、油圧の力を使って、極めて大きな力で対象物を切断する工具です。本来は、災害救助の現場で鉄筋を切断したり、建設現場で使われたりするものですが、残念ながら、そのパワーは窃盗にも悪用されています。小型で充電式のものも登場しており、犯人はそれをカバンに忍ばせ、犯行に及ぶのです。その威力は絶大です。ホームセンターなどで販売されている、一般的なU字ロックのシャックル(U字型の金具)であれば、直径が15mm程度あっても、油圧カッターの前では、まるで太い針金を切るかのように、わずか数秒で「バチン」という音と共に切断されてしまいます。抵抗らしい抵抗すら、ほとんどできません。この現実を、動画サイトなどで目の当たりにした多くの人が、「これではU字ロックは意味ないじゃないか」と、絶望的な気持ちになるのも無理はありません。では、私たちは、この圧倒的な破壊力の前に、ただ無力にひれ伏すしかないのでしょうか。いいえ、まだ対抗策は残されています。まず、U字ロックを選ぶ際に、その素材にこだわることです。表面だけを硬化させた安価な製品ではなく、芯まで熱処理された、非常に硬い「焼入れ特殊鋼」を使用した、ハイエンドモデルを選ぶのです。これらの製品は、油圧カッターの刃をもってしても、簡単には切断できず、刃こぼれを起こさせるほどの強度を持っています。また、シャックルの断面が、円形ではなく、四角形や六角形になっているものも、刃が食い込みにくく、切断に対する抵抗力が高まります。もちろん、価格は高くなりますが、それは愛車を守るための保険料です。そして、やはり基本に立ち返り、U字ロックだけに頼らず、複数の異なるタイプの鍵を組み合わせる「ダブルロック」を徹底すること。油圧カッターという「矛」の存在を知った上で、それに対抗しうる、より強固な「盾」を用意する。その意識こそが、現代の盗難対策の最前線なのです。
U字ロックvs油圧カッター、その絶望的な現実