俺の相棒、長年連れ添った大型バイクが盗まれたのは、よく晴れた土曜日の昼下がりだった。行きつけのカフェの前に、ほんの一時間ほど停めていただけだ。もちろん、何の対策もしていなかったわけじゃない。俺は、いつも使っている、ずっしりと重い、信頼の置けるメーカーのU字ロックを、後輪にがっちりと掛けていた。地球ロックこそしていなかったが、「こんな人通りの多い場所で、この頑丈なU字ロックを壊せる奴はいないだろう」。そう、俺は完全に、U字ロックの力を過信していたんだ。カフェで友人と談笑し、店を出た俺の目に飛び込んできたのは、相棒がいたはずの、空っぽの空間だった。頭が真っ白になり、心臓が凍りつく。すぐに警察に通報し、防犯カメラの映像を確認させてもらうと、そこには信じられない光景が映っていた。一台の不審なバンが、俺のバイクの横に停まる。中から出てきた二人の男は、周囲を気にするそぶりもなく、俺のバイクを、まるで軽い荷物のように、いとも簡単に持ち上げて、バンの中に放り込んでしまったのだ。U字ロックで後輪が固定されているため、押して動かすことはできない。だから、彼らは「持ち上げる」という、最も原始的で、そして最も確実な方法を選んだんだ。犯行にかかった時間は、わずか30秒足らず。俺が絶対の信頼を置いていたU字ロックは、車体ごと持ち去るという手口の前では、全くの無力だった。警察官は、同情するような目で俺に言った。「地球ロックしてないと、こうやって持ってかれちゃうんですよね…」。その言葉が、俺の胸に深く突き刺さった。俺は、U字ロックという「道具」の性能にはこだわっていたが、その「使い方」の基本を、完全に怠っていたんだ。頑丈な鍵をかけているという安心感が、油断を生んでいた。この苦い経験は、俺に盗難対策の本質を教えてくれた。どんなに強力な鍵も、それ一つだけでは意味がない。地球ロックという基本、そして複数の鍵を組み合わせるという鉄則。それを実践して初めて、鍵はその真価を発揮するのだと。俺の相棒は、もう戻ってこない。しかし、この後悔と教訓だけは、一生忘れることはないだろう。
あるバイカーの後悔「U字ロックを過信した日」